INDEX

Poker gameの道化師は走り出す

(キールくん、ヴァンさん、ダンバイスさん、シルベスターくん、あと名前はでていませんがオンニさんをお借り致しました)




「アール、いいな!絶対に賭け事なんてするんじゃないぞ!?」
「はいはいはい、わかったわかった」

リーダーからメールが届いて3秒後にはグレイが私の研究ブースに飛び込んできた。
………全く心配性なんだって。
そう彼女がため息をついたあと、彼女のパソコンにさらにメールが飛び込んできた。
「何、これ……」


<Poker gameの道化師は走り出す>


「ちょっとこういわれると参加してみたいと思わない?」
「めっずらしーな、アールがやる気」
「リーダー、茶化さないで」
「はいはーい」
食堂の机を大きく叩いたアール。コップの中の水が跳ねた。
「そういう訳でリーダー、なんでも良いからカジノのゲームのやり方教えて」
「そっから!?え、もしかして遊びですらやったことない?」
「勿論。やるからには徹底的にしたい」
瞳の奥どころか体中の至る所から滲み出るやる気にキールがたじろいだのはいうまでもない。こうなればゲームだろうが真剣勝負なのが、この若き発明家の性質である。
「ん?なんだ、アールじゃないか」
「……甘いものなら自分で頼んでください」
「最初からそれってどうなんだよ………」
横から興味深そうに覗き込んだヴァンには目もくれず、一生懸命キールからゲームの説明を受ける。

「しっかしまあアールのこれは今に始まったことじゃねーか。あ、俺苺パフェ!」
「若いねー。おっさん若い子についていけねーわ…」
「アールさん何やってるんですかー?」
わらわらと彼女の周りに人が集まる。……単純に普段研究室にこもりっぱなしなアールが食堂に来ること自体珍しいということもある。

「皆して『その格好じゃただの見窄らしい作業員』って言って……!大体これ以外の服って殆どないし」
少し油で汚れたつなぎを恨めしく睨みつける。普段は下着以外は大体同じような格好。さすがにこの格好でホテルに入るのはためらわれるらしい。
他にあるのは兄から貰った帽子と防寒用のコート、のみ。確かに研究室に籠り機械を作る格好としては最適な服なのだが。
「正装くらいは持ってて無駄じゃないっていうし。よし」
彼女は兄にこう書き残して研究室をあとにする。

『ガラクタ捜索に付きしばらく音信不通 Earl Rustynail』



「こんばんは、いらっしゃいませ。私は当ホテルのオーナー、シルベスター・シュヘンズレヒターと申します」
夜中の2時をまわった頃、シュレンズレヒター・グランドホテルに客が訪れた。
茶色と赤の中間のような髪、茶色の瞳の少年は無言で腕章を彼に見せる。
「……その腕章は『ゲーム』参加者の方ですね。こちらへどうぞ」
彼が案内するのはホテルの47階、無人フロア。

「……へえ、ここがカジノかあ」
銀色の星を大切に懐にしまった少年がきらびやかなカジノに目を輝かせる。
「それでは、ごゆっくり」


「とりあえず一通りのルールとやりかたは教えてもらったし、片っ端からやろう」
少年…否、男装をしているアールは、変装のためにかけた伊達眼鏡を押し上げる。慣れていないのか少しぎこちない。
「あっちがルーレット。向こうがバカラ、か」
どこからいこうと悩む彼女の後ろから、ジャラジャラととんでもない数のコインが雪崩れるような音が聞こえた。
「何かスロットに仕込んだ?」
「いや、そんなことは!」
「そんなこというから怪しいなー」
「そんなことしねえって!」
一連のやり取りを横目でちらりとみる彼女。ふう、と一つため息をついた。
……イカサマは簡単に運営委員会にばれるってことね、と心の中でいい、ルーレットのブースへと向かう。

「勝てない」
むっすーとした顔で残った銀の星をみつめる。10個あった星は今は残り4つである。バカラで負け、ルーレットでも負け、ダイスでカモにされた結果である。スロットと麻雀で若干取り戻せたおかげなのだろうか、星が残っているのは不幸中の幸いである。
「そんなちまちま賭けってっから負けんだぜ、兄ちゃん!」
「そーそー!いくならどーんといってこい!といってもその残りじゃーなー」
謎の二人組から後ろから声をかけられる。風貌や口調からして普段から賭け事になれているんだろう。
「最後まで諦めない。まだ一番得意なのが残ってる」
二人組を背に、彼女はポーカーのテーブルへと向かって行った。

いかにも手練というなかにまぎれこむ得体の知れない少年に周りはどよめく。
新しいカモがきたか、といやらしい笑みを浮かべるプレイヤー。
「さあ、はじめてくれ」
この少年が普段研究室にこもっている発明家ということは誰もしらない事実である。

「ツーペア」
「ストレート」
「スリー・オブ・ア・カインド」
各プレイヤーが役を発表していく。これで負けてしまえば一文無し、ではなく一星無しになってしまうアール。
「……フラッシュ」
タン!と気持ちいい音を立ててテーブルにカードを置くアール。他のプレイヤーが少しだけ驚いた顔をするも、すぐさま真顔に戻る。

ポーカーフェイスができてないよ皆さん。

アールは心の中であざ笑いながら机に置かれたチップを回収する。4個から13個に増えた星をみて、とりあえず心のなかでガッツポーズ。
「さあ、次のゲームにいきましょうか」
眼鏡をくいっと押し上げアールは最初のチップを賭ける。

「(こいつ、読めねえ……!)」
「(まて、今は勝たせておいてあとでとりかえせばいい)」
「(ちょっとしたパフォーマンスだよ)」
アール以外の3人はどうやらグルのようである。ただ、そんな会話も彼女には筒抜けである。

やっぱり対ポーカー用に作ってきた心情スコープは使えるね。

彼女がかけている眼鏡、実はこれも発明品であり、ターゲットの息づかい、体から発生する水蒸気量、体温などを分析して相手の心情を透かしみることができるものらしい。もっとも、

リーダーが私がポーカーに向いてる、っていうから作ったんだけどね。

ついでにスイッチ一つで紙に反応するように細工をしたらしい。彼らの服の中にあるトランプの動きが手に取るようにわかる。ただ、一つ難点というかミスなのはそのカードのマークが読み取れないこと。

ま、相手がイカサマしているってならこっちにも策があるっての。

くいっと先ほどよりも慣れた手つきで眼鏡をあげるアール。漸くこの姿にも慣れてきたらしい。目に飛び込んできた相手の心情。そこから計算し、相手の伏せられたカードを予測する。
「ベット」
「コール」
「レイズ」
「リレイズ」
一世一代、とまではいかないが、ここで思いっきりほぼ全ての星を賭けるアール。辺りはざわめき、向こうの心の声は当然のごとく『馬鹿か』と罵るものである。

「こっちはストレートフラッシュだ、さあ餓鬼、お前はなんだ」
ニタニタと笑いながら相手が役をいう。完全になめてかかっている様子。その姿にため息をついてゆっくりと一枚ずつ表に返す。スペードの10、ジャック……。

「ロイヤルストレートフラッシュ」

そういって彼女は机に置かれた星を全て引っ掴んでその場をあとにした。彼女の目的とする数に達したのだろう。唖然とする相手を鼻で笑って、あくまでもクールに振る舞っていた少女、見た目は少年なのだが、に惚れた人間もいたとかいないとか。

どこか煙草の煙が立ちこめるカジノ。そんな白の煙を払うようにアールは進む。
「……君は、ギルドのアール・ラスティネイルだな」
「!?」
すれ違い様に呟かれた本名。つまるところ変装が見抜かれている。瞳を大きく開いて振り向くと背の高い男性が背を向けて歩いていた。
「確かあの人、星配りにきてた、」

確か名前はダンバイス。運営委員会の人間だ。
ゲームが始まった直後、彼から星を受け取ったのだから、顔見知りといえばそうなのだが。

……今度から変装はもう少し凝ったものにしよう。

彼女はがしがしと頭を書いてカジノを去った。
手に入れた銀色の星は62個。しかし、イカサマで稼いだものをそのまま持って帰るのは気が引けたのだろう、ポーカーの一戦目で稼いだ12個、そして次で稼いだ60個の中から10個を取って、残りはダイナミックにゴミ箱の中に投げ入れた。

「ともかく、これで”ゲーム”のコマが少しでも進めれるのなら、」




「カジノにいったんだって!?どうしてなんだアール!」
研究室に戻ると心配した兄、グレイがアールに向かって怒鳴る。いつも優しい兄がここまで怒るのもなかなか無いらしく、彼女は少しばつの悪そうな顔をする。
「グレイは、知らないの?」
「一体何を?」
「最近、変なところからメール着てる。”ゲーム”参加者に対して」
「あっれ、おかしいな。俺、そんなメール届いてたっけ」
「どうせグレイのことだから意味わからないメールは全部捨てちゃってるんでしょ」
「かもしれねー、って!それとこれとはぜんぜん違う!どうして約束を破ったんだって聞いてる!」
眼鏡を外し、縛っていた髪の毛をほどくアール。ついでに上着も脱ぐ。少し暑かったのだろうか。

「私は、この”ゲーム”に興味がでた。ただ、それだけ」

ブゥン、とパソコンのファンがまわる音がする。スリープ状態のパソコンを起動させたアール。グレイには目を合わせずに椅子に座る。
「いままで興味なかったんじゃないのか」
「気が変わった。この私に喧嘩売ってるよ、この送り主」
機械工学、情報工学を専門にしている彼女にとって、何もわからないまま誘導されるこのメッセージは宣戦布告のようなものなのだ。
「私は私の戦い方をする。だから、グレイは心配しないで。止めもしないで」
「俺が何をいっても駄目なんだな?」
「うん。グレイには悪いって思ってるけどさすがに私も子どもじゃない。だから、」

寂し気にパタン、と部屋の扉が閉まった。立ち去る兄の姿がまるで、娘を嫁に出したあとの父親の後ろ姿のようだと妹はしみじみと思う。
「グレイに悪いことしちゃったな」

この”ゲーム”が終わったら、ちゃんと兄孝行しないと。

「それにしても、これ……。ますます解読しがいがあるかも」
パソコンの画面に映し出された文字。カタカタ、とキーボードをたたくアール。

「エデンの、鍵……」

アール・ラスティネイル、彼女は機械や研究以外に何も興味を示さなかった研究者。
”ゲーム”の存在すら無かったことにしていた彼女が、ようやく動き出す。





二回戦終了。星所有数:アール2個(初期1+二回線1)、グレイ1個(初期1)

INDEX

Designed by TENKIYA
inserted by FC2 system